笠井 浩
経営者として。

春日部で働く経営者としての日々

ただの老木に非ず

本堂の改修をお手伝いさせていただいて以来、
お付き合いをいただいているお寺の境内で、
アカマツが枯死しているのを見つけてしまいました。
アカマツという木は、明るい日差しを好みながらも、
不毛な環境にも耐えられる、常緑針葉樹です。
その反面、葉を食べてしまう松食い虫(マツカレハ)や、
マツ材線虫病を媒介するカミキリムシなどの虫がつきやすく、
樹齢を重ねるごとに成長が鈍くなる木でもあります。
お寺にうかがうたび、気にはなっていたのですが、
とうとう、その時が来てしまった。そういうことです。
樹齢はおよそ400年。
ほぼ、天寿を全うしたと言ってもいいと思います。
数百年に及ぶ、由緒正しき寺の歴史を、すべて見守ってきた木です。
捨てたり、燃やしたりしてしまうのは、あまりにも忍びない。
近所にお住まいの方や、寺の檀家の方々にとっても、
それぞれに思い出のある木です。
何らかの形で遺したいと思い、その時は特に考えもないまま、
笠井木材の作業所に、枯木を引き取ってきました。
作業所で、朽ちてしまった部分や虫に食われた部分を取り除いてみると、
中はほとんど空洞でした。
生きている間、寺を訪れる人の悲しみを
体の中に溜め込んで、引き受けてきたかのように。
その悲しみをすべて、寿命を終えると同時に昇華させたように。
枯木になって横たわっている姿にも、
「見守ってきたもの」の厳かさが満ちあふれています。
オブジェになるのか、あるいは別の目的物になるのか、
いまはまだわかりません。
でも、寺を訪れた人が
「ああ、あのアカマツか」
と思ってくれるように、もう一度命を与えたいと考えています。
 
クリーニング後のアカマツ。
横たえても独特な形状と、
深い色合いに樹齢400年の
強烈な存在感が溢れている。
中は虫食いと老朽で、
クリーニング後はほぼ空洞になった。