春日部ひろし歩き

春日部で育ち、地元で二つの会社を経営する男です。

Kasukabe

第1歩 ジョッカーと大トロ

「春日部って、クレヨンしんちゃんのまちでしょ?」

 

“春日部で会社をしている”というと、

こう言われることが多い。

さぞかし町中には、しんちゃんのキャラクターが

溢れてることだろうと、みんな思ってるんでしょうが、

んなこたない。

駅出たところにちょっとした看板があるくらいなもんで。

 

春日部=粕壁といえば江戸時代は、日光街道の中では

それなりに知られた宿場町で、

昭和の時代には、駅の東口を出れば

その名残があちこちに残ってた。

 

そんな名残を見つけたくて、日中、市内を車で走っている時に

ふと立ち止まって、歩いてみたりする。

古利根川沿いに立ち並ぶ、旧建築の木造家屋、

駅東口の住宅街にある美しい商家蔵。

歩いている最中に突然現れる、古い映画の看板。

そういえばこのあたりには昔、映画館が二つあって、

小学生の頃は、「東映まんがまつり」を

半年に一度、観に来るのが楽しみだったっけ。

 

昼の散策をしたりすると、夜もじっとしていられない。

春日部の夜は、昼に負けじと、いや、

昼よりも「おいしたのしい」から。

この街を愛し、この街で素敵な飲食店を営んでいる人たちと、

うまい酒とつまみをいただきながらバカっ話をするのが、

至極で至福、最上の時間なのだ、ワタクシには。

 

「あれ? ひょうきん族だっけ? 出てたの?」

 

「出てないっつーの! 『みなさんのおかげです』の

 “ちびノリダー”っすよ。ジョッカー役で

 キィキィ言ってた(笑)」

 

今宵のお卓は、「柚庵」の炉端焼きカウンター。

大将が鎮座する焼き場を三方に囲んだカウンターは、

なんともあったかい居心地。

この大将、若き頃はお笑いタレントとしての

修業時代を送った。ただし、バブル期に。

 

「良かったすねー、あの頃は。毎日がパーリーで…」

 

その後は六本木の、芸能人や政治家などの御用達と言われた

超高級炉端焼き店で、7年に及ぶ修行を積み、

平成16年に、母の経営していた居酒屋を

炉端焼き割烹に変え、代を継いだ。

 

出てくる味に間違いはない。

自分が釣ってくることもある、吟味された魚貝。

いい具合に脂がついた鶏。

客前に並べられた、いかにも新鮮な野菜。

座布団に腰掛けた大将が、目の前で焼いてくれる

各品に、何も考えず口も頬も緩む。

 

「あ、この間いただいた日本酒、出しますね」

 

大将が春日部市内の竹林から切り取ってくるという

竹のとっくりに入れられた日本酒。

冷やでいただけば……キレがあってさわやか。

気がつけば目の前には、

マグロづくしの深紅の刺盛りと能登烏賊の丸干し。

大トロを一口つまんで、さわやか酒をいただけば……

烏賊の丸干しを唐辛子マヨでいただき、酒をクイッ……

 

「くぅぅぅーー」

 

しか出ないっての。

いつもバカっ話ばっかりで忘れそうになるけど、

ここが「うま楽しい店」なんだと思い直した

初秋の、月が美しい夜。

炉端焼き 割烹

魚菜家 柚庵

〒344-0067 春日部市中央1-45-12

048-736-1484

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